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契約の当事者となるには権利能力と意思能力が必要とされます。
権利能力とは、人と人の関係において権利を有し、義務を負担する主体となることができる資格を言い、すべての人は出生によって権利能力を取得し、死亡によって権利能力を失います。
意思能力とは自分がした行為によって生じる結果を予測・判断することができる精神能力を言います。
権利能力は出生によりすべての人が取得しますが、意思能力については正常に判断ができない場合にまで認めてしまうと取引の安全を害し、その人自身が自由競争の犠牲になる可能性が高くなります。
このように実際に意思能力があるかどうかにかかわらず、通常において意思能力が不十分な状態にあると認められる人を形式的に制限行為能力者として財産を守るために法制度が定められました。
民法の規定により
の4種類を定めています。
制限行為能力者の財産を守る方法には、以下の2つの方法があります。
未成年は20歳未満の人をいいます。未成年者は民法上は制限行為能力者として扱われ保護者が必要となります。親がいれば親権者がなり、親がいなければ未成年後見人の保護者が必要となります。
両者とも法定代理人といい、同意なく単独で有効な法律行為をすることはできず、単独でしてしまった場合にはその行為を取り消すことができます。
といった3種類の例外が未成年者の能力として認められています。
平成23年度の改正により、法人も未成年者の法定代理人となることが可能になりました。
法定代理人は
をもっています。
20歳未満であっても男性は18歳、女性は16歳になれば結婚(婚姻)をすることができます。婚姻により成年者として単独で私法上の行為ができるようになり、このことを成年擬制といいます。
成年被後見人とは、
をいいます。
事理弁識能力を欠く状況とは、意思能力さえないのが普通になっている状態をいい、目安としては3歳未満の子どもの能力程度といわれています。
成年被後見人は制限行為能力者なので保護者が必要となります。成年被後見人の保護者は成年後見人といい、家庭裁判所に選任された人(法人)がなります。
成年後見人も法律によって代理権が与えられる法定代理人です。
成年被後見人は日用品の購入等などの日常生活に必要な範囲の行為については単独で有効に行うことを例外として、単独で有効な法律行為をすることができず、単独でしてしまった場合はその行為は取り消すことができます。
さらに民法で定められた4種類の制限行為能力者の中でも一番保護の必要性が高いとされることから、成年後見人の同意を得て行った場合も取り消すことができます。
成年後見人は
をもっています。
同意権がないのは、たとえ成年後見人が同意を与えたからといって成年被後見人は自分だけで適切な法律行為をすることが期待できないからです。
被保佐人とは、
をいいます。
事理弁識能力が著しく不十分な状況とは、意思能力はあるけれども財産管理に関する判断能力が著しく低いことをいいます。被保佐人は制限行為能力者なので保護者が必要となります。
被保佐人の保護者は保佐人といい、家庭裁判所に選任された人(法人)がなります。保佐人も法律によって代理権が与えられる法定代理人です。被保佐人は原則として単独で有効な法律行為をすることができます。
例外として重要で危険な財産の処分行為については同意が必要となります。
具体的には
等が挙げられます。
これらの行為以外も保佐人の請求によって家庭裁判所は保佐人の同意を要する旨の審判をすることができます。
保佐人は
をもっています。
ただし、代理権は特定の法律行為についてのみ本人の同意を得て家庭裁判所の審判を受けて与えられます。
被補助人とは、
をいいます。
事理弁識能力が不十分な状況とは、重要な取引について誰かの援助があったほうが良いという精神状態をいいます。その程度が深刻な場合には、保佐開始の審判の対象となります。
事理弁識能力を欠く常況にあるか、または著しく不十分である者については、後見開始の審判または保佐開始の審判によらなければならず、補助開始の審判をすることができません。
補助開始の審判は、補助人の同意を要する旨の審判及び補助人に代理権を付与する旨の審判の一方または双方とともにしなければなりません。
補助開始の審判について本人以外の請求又は補助人の同意を要する旨の審判や補助人に代理権を付与する旨の審判をする場合においても、自己決定の尊重の観点から本人の申立てまたは同意が必要とされています。
被補助人が単独で行うことができないのは、家庭裁判所が補助人の同意を要すると決めた特定の行為だけになります。
法定代理人である補助人には、この特定の法律行為について
のいずれかが与えられ、同意権の範囲で
を有します。
人間が社会生活を送る上で婚姻や遺言などのような身分上の行為については、できるかぎり本人の意思を尊重すべきとされています。
ゆえに身分行為については、制限行為能力者についても一般に行為能力の規定は適用されず、結果を予測・判断することができる意思能力があるかぎり、単独で有効に行うことができます。
例を挙げると、成年被後見人の婚姻には成年後見人の同意が不要であるとされ、また、未成年者や成年被後見人は単独で認知することができるとされています。
さらに取引などの性質上、行為能力の有無を問題にすべきではない場面があります。
取引のなかには、電車・バスの利用やコンビニでの商品購入などのように、利用購入者の行為能力を事前に調査することが困難であったり、事業者側から行為能力の制限を理由に取引を拒絶されると日常生活の遂行に支障をきたしたりするものも存在します。
このような日常生活において必要な取引に関しては、行為能力を制限することが弱者を保護することにならず、自由な行動の幅をある程度確保することが人たる生活に値します。
民法では、自己決定の尊重という理由にもとづいて、日用品の購入その他日常生活に関する行為について成年被後見人などの行為能力を認めているのです。
制限行為能力者が単独ではできない法律行為を行った場合、その行為を取り消すことができます。その取消の効果は、対象となる行為を最初にさかのぼって無効とします。
この取消の効果は取消前に現れた善意の第三者にも対抗することができます。
ただし制限行為能力者が、行為能力者であるかのように取引の相手方を信じさせるために詐術を用いた場合は保護に値しないので、その法律行為を取り消すことはできません。
詐術とは自分が行為能力者であるといったり、未成年者が保護者の同意を得ているといったり、自分が制限行為能力者であることを黙っていて他の言動と合わせて取引の相手方を信じ込ませたり(誤信)したときは該当するとされており、法的に取引相手の保護を図っています。
取り消せる行為がなされた場合には取消権を行使するか否かで取引相手が不安定な状況に置かれる期間があるので、制限行為能力者側に対して取引相手側は1か月以内の期間内にその行為を追認するか否か確答を求める催告権を定めています。
未成年者・成年被後見人は受領能力がないので催告自体が無意味ですが、被保佐人・被補助人に対しては確答がなければ取消したものとみなされます。
保護者に対して催告権を行使して確答がなければ追認したものとみなされ、取引相手の保護をより積極的に図っています。